キャバレー


感想

   大人計画の芝居をずっと観たいと思っていたんですが、なかなかチケットが取れず、結局まだ一度も観たことがなかったんですが、今回、大人計画の本公演ではありませんが、ついに松尾スズキ演出の舞台を観ることができました。しかも、ブロードウェイミュージカル「キャバレー」を演るっていうんだから、またすごいじゃないですか。松尾スズキとブロードウェイミュージカルって、全く想像もつきませんでしたが、まぁいい意味で原作をぶっ壊してくれました。めちゃめちゃ爆笑しました。映画版は観たことがあるのですが、はっきりいって笑うところなんて全くないですよね。それを本筋はそのままであれだけ笑うところを入れるなんて、さすが松尾さんです。ストーリー自体はたいしたことないし、それほど物語も盛り上がるところもないし、歌も肝となるいい曲があるわけでもないので、はっきりいって松尾スズキ演出じゃなかったら、かなりつまんないミュージカルだったんじゃないかなと思います。かなり有名なブロードウェイミュージカルなんでこんなこと言ったら失礼かもしれませんが。。。  

   ストーリーは夢と現実、理想と現実みたいなものがテーマになっているんですが、これって人間だったら誰しもある思いです。夢や理想は誰でも持っているし、夢や理想を追って生き続けたいと思っているけど、ほとんどその夢や理想どおりにはいかないわけで、必ず現実との折り合いをつけて生きていかなければいけない。そんなことがキャバレーを通じて描かれています。前半はとにかくその夢や理想の部分に焦点が当てられています。アメリカからドイツに出てきた売れない作家がキャバレーのスター女優と出会って一緒に暮らしだし、彼が住むアパートの老夫婦も恋に落ち婚約をしたり、しかしナチスドイツのユダヤ人虐待という黒い雲が忍び寄ってくることによって、それぞれに現実が突きつけられます。その時にそれぞれがどういう選択を取るか。その辺がただの楽しいだけのミュージカルとは違います。人間は夢や理想だけでは生きられないし、かといって夢や理想がなくても生きられない。だからこそ人は絶望するし、生きる喜びもある。人生はキャバレーというセリフがあるけれども、まさにその通りだと思います。   

   役者はとにかく豪華。阿部サダヲに松雪泰子に森山未来。とりあえず生阿部サダヲをずっと見たいと思っていたので、それだけで満足でした。やっぱり阿部サダヲは最高です。いつものごとくあっちこっち動く動く。客をいじるいじる。松尾スズキの笑いを熟知している阿部さんだけあって、間とかテンポとか完璧です。素晴らしすぎる。森山未来はメタルマクベスの時に歌とダンスは素晴らしいってことは分かっていましたが、今回はその歌とダンスを発揮する機会があまりありませんでした。舞台にでずっぱりではありましたけど。それから松雪泰子もさすがの風格でした。役者は言うことなしです。カーテンコールでは、今回は演出に徹した松尾さんも舞台に出てきてくれて、とにかく満足です。  

   松尾さんの演出ですが、元の翻訳のセリフの原型はほとんどとどめておりません。宮藤さんの『メタルマクベス』もそうでしたが、原作のある物語をここまで自分の物にできるなんてやはり天才です。ほとんどパロディに近いところまで来ていましたからね。だけど舞台は生ものだってよく言いますけど、今回はまさにそれを感じました。昔からある超名作ミュージカルに松尾さんが「今」を吹き込んでくれたことで、今の日本人達が共感できて、しかも3時間楽しい時間をすごせる作品に仕上げてくれました。   

   大人計画好きな方、ミュージカル好きな方はもちろんですが、ミュージカル嫌いな方もきっと楽しめる作品になっていると思います。是非ご覧になってください。



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