オケピ!


あらすじ

   舞台はミュージカル「ボーイ・ミーツ・ガール」のオーケストラピット。いつものようにコンダクター(真田広之)が一番始めにピットに入ってくる。彼は気弱な性格で、妻であるヴァイオリン(戸田恵子)には浮気をされ、なおも頭があがらない。それにもかかわらず男にだらしないハープ(松たかこ)に言いよっている。その他にもずっと夢見ていたミュージカルのオケピに初めて立ったパーカッション(山本耕史)や神経質で生真面目なオーボエ(布施明)、ミュージカル嫌いのトランペット(伊原剛志)、影の薄いヴィオラ(小林隆)など、個性豊かなメンバー達に翻弄され、本番中でもコンダクターは大忙し。そんななかミュージカルの幕が開いた。果たして無事に終えることができるのだろうか。



感想

   三谷幸喜の舞台を生で観るのは、これが初めて。ドラマや映画はほとんど観ているが、舞台は劇場中継をテレビで二つほど観ただけ。ただ今回は初のミュージカルということもあり、半分期待、半分不安で劇場に足を踏み入れた。三谷はでたがりで有名だが(映画の予告にもちゃっかり登場した)、今回もどっかで三谷自身が出てくるんじゃないかと疑っていたのだが、案の定、開演前にアナウンスがはいった。「皆さん、こんばんは、三谷幸喜です。劇場内でのご飲食はよっぽどお腹がすいていても、おやめください」こういう登場の仕方で来たか、とちょっとやられた気分。開演前から場内は笑いが絶えない。そしてそれに加えて、何か客席が騒がしいと思ったら、客席に鈴木京香や筒井道隆、長塚京三など芸能人の皆さんがいっぱい観に来ていらっしゃいました。舞台上だけでなく、客席まで豪華キャストとはさすが三谷幸喜。

   作品自体も最高だった。まず驚いたのはセリフが多い。いつ歌にはいるんだと思うほど最初ずっとセリフが続いた。こんなにセリフの多いミュージカルは初めて観た。三谷はミュージカル嫌いでも観られるものにしたいということで、自然と音楽が身近にあるオケピを題材にしたところなんてうまいし、ミュージカル特有の臭いセリフもない。だって「サバの缶詰」なんてミュージカルの歌詞に普通でてこないでしょ?これなら多分、ミュージカル嫌いのタモリでも観られるでしょう。

   めちゃめちゃ大爆笑できるので、ただのコメディかと思うと、なにげに奥深いセリフがあったりする。「人生で起きることは全てここで起こる」とか。個人的に好きなキャラは山本マーク演じるパーカッション。憧れのミュージカルの世界に初めて参加するが、みんなやる気がないという現実に苦悩するという役柄で、彼は物語が進むにつれてだんだん成長していき、最後はメンバー全員が音楽が好きだということを理解する。そして見事ラストのシンバルを成功させる。その時はちょっと涙がこぼれそうになりました。彼の役が、なんか自分と少し重なってしまいました。自分もテレビ業界と言うものにずっと憧れを持っていて、それがかない、テレビ制作会社に内定もらったけど、研修をしてみて、実はひとつの番組を作るために大変な努力がいり、非常に地味な作業の繰り返しであることを知りました。いわば、スポットライトの当たらないオケピとおんなじ状況なのだ。ただミュージカルには観客がいるし、テレビには視聴者がいる。多くの人に感動を与えるということに少しでもかかわっているという誇りをもつことが必要なのだと思った。そしてテレビが好きだということを常に忘れずにいようと決意しました。

   シナリオがただ面白いというだけでなく、曲も結構いい曲ばかりです。「オーボエ奏者の特別な一日」という曲なんて、布施明さんの歌声に涙でない人はいないでしょう。「俺達はサルじゃない」も観る前はただのギャグの歌かと思ったら、音楽家としての誇りを取り戻す、大切な曲だったし。最後には日本ではめずらしくスタンディングオベーションがおきました。こんなに笑えて、泣けるミュージカルは他にないでしょう。ブロードウェイでも通用する質の高い作品です。劇場を出る時には、お約束のように三谷さんのアナウンスでお見送りでした。「埼玉県の皆さん、終電が近づいています。お急ぎください。」かなりうけました。



back