tick,tick...BOOM!


あらすじ

   舞台は1990年のニューヨーク。『RENT』が世界中の人々に衝撃を与えることとなる、その6年前。30歳の誕生日を目前にしてジョナサンは、自分の作曲家としてのキャリアに焦りと不安を感じ憂鬱な日々を送っている。素晴らしい作品を書きたいとの燃えるような思いはあるものの、現実は相変わらず、ダイナーで働きながらの貧乏作曲家としての日々。

   親友でルームメイトのマイケルは現実派。俳優になるという夢に見切りをつけ、マディソン・アヴェニューのビジネスマンに転進して成功し、新車のBMWを手に入れたばかり。彼に勧められて就職することもジョナサンは考えてしまう。一方、恋人のスーザンもダンサーという夢を捨て、ジョナサンと結婚してニューヨークを離れたいと言い始める。彼女を深く愛してはいても、そんな彼女の思い描く幸福に乗り切れないジョナサン。そんなある日、ジョナサンはマイケルからHIVに感染していることを聞かされる。自分のすべきことはなんなのか、人生とはなんなのかジョナサンの心は揺れ動く。



感想

   人生を変えてしまうほど、僕の心を打ったミュージカル作品『RENT』。今まで何度となくこの作品を観て、そのたびに深くこの作品にのめりこんできました。その『RENT』の生みの親、それがこの『tick tick Boom!』の主人公であり、作者のジョナサン・ラーソンなのだ。30歳の誕生日を前にして、いまだミュージカル作家として成功しない苦悩を自らミュージカル作品として作ったのがこの作品なのだ。彼はこの作品の後、『RENT』という傑作を作りそれが世に送り出される前にこの世を去った。つまり自らの成功を見届けることなく死んでしまったのだ。そのことを理解してからこの『tick tick Boom!』を観ると、より感動するだろう。つまり『tick tick Boom!』は『RENT』のエピローグでもあり、プロローグでもあるのだ。

   まずは楽曲の素晴らしさだろう。『RENT』があれほどのヒットをしたのも楽曲の質の高さがあったからこそなのだからだが、この『tick tick Boom!』も『RENT』ほどではないが、基礎の楽曲がしっかりしている。どちらかというと詞の内容は軽い感じの曲が多いので、心を深く打つというほどまではいかないが、やはりジョナサンは天才です。

   物語はかなり『RENT』とリンクしている部分があって、『RENT』を知っていればよりいっそう楽しめると思う。この作品を書いたときのジョナサンはもちろん後の成功など全く予想もしてないわけであって、むしろもうすぐ30歳になるのにミュージカル作家として芽すら出ていない自分に対する苛立ちと苦悩そして不安からこの作品が生まれたのだろう。でもジョナサンは決してなげやりな気持ちになっているわけではない。そんな状況にありながら尚前向きな気持ちを持っているのである。この作品のテーマは「あきらめない心」と言ってしまったら陳腐かもしれないが、どんなに絶望的な状況、不安な気持ちにいたって常に前向きな気持ちを持って、一日一日を過ごしていくという姿勢。まさに『RENT』のテーマである「no day but today」の精神なのだ。ジョナサン自身がこうした楽観主義的な思想を持っていて、決して夢をあきらめなかったからこそ最終的に成功を収めたのだろう。非常に古典的な精神論になってしまうが、やはりどんな時代でも夢を決してあきらめない、そして自分自身をあきらめない気持ちを持つことが大切なのだ。

   キャストに関してだが、まず主役ジョナサンを演じるのは「ひとつ屋根の下」でおなじみ、来年の大河ドラマにも出演が決定し、日本版RENTの主役マークも演じた山本耕史。彼は相変わらず素晴らしい。RENTの時も感じたけど、歌も演技もかなりの実力を持ってる人で、もう彼に関しては文句ひとつないです。セリフから歌へ流れていくのもうまいし、舞台なれもしているし。マイケル役は現在「伝説のマダム」に出演中の大浦龍宇一。彼がここまで歌がうまいとは思いませんでした。ニヒルな感じとかすごくいい。彼も合格。さぁ、問題はTRFですよ。スーザン役のYU-KI。ていうか3人のキャストの中で唯一の歌手でしょ?なのに一番歌が下手ってどないやねん!!腹式呼吸すらできてないですからね。初舞台だそうなので、演技とか下手ってのはまぁしょうがないかとは思いますが、でもセリフはかむわ、音はずすわ、声でないわでもう最悪です。残念ながらミスキャストとしか言いようがありません。キャスト3人だけなので、演技力とか歌唱力とかが非常に要求されてしまうので、ちょっとつらいっすね。しかも歌もかなり歌唱力が必要な歌が多いですからね。TRFじゃダメですよ。

   というわけで、『RENT』好きの僕としては途中泣いてしまうほど感動しました。非常にいい作品だと思いました。しかもなんと今回席が一番前という奇跡が起きました。前職で、身近で芸能人を見ることには慣れてますが、やはりミュージカルはLIVEで見ると迫力が違いますよね。しかも一番前ともなるとバンバン唾が飛んできますからね。なので個人的には大変満足な観劇でした。帰りにサントラを買ってしまったことは言うまでもありません。



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