RENT


あらすじはこちらへ





感想

   一つ上の「ミス・サイゴン」の感想のところで、ニューヨークミュージカルツアー最後の作品だと書きましたが、嘘でした。これが最後の作品。実はこの観劇は予定外だったんです。ある奇跡が起こって、この作品を最後に観ることができたんです。

   その奇跡とは、このRENTという作品は、毎回一番前の列と二番目の列30席くらいを20ドルで抽選で売るんです。日本でRENTが上演された時も、同じようなのがあって、ブレイクスルーシートと呼ばれていました。その席をゲットするには、開演の二時間ちょっと前に劇場に行って、小さな紙に自分の名前を書いて、係員に渡す。そして開演二時間前ちょうどになると、箱からその紙を一枚ずつひいて、名前を呼びます。そして当たった人は20ドルという格安の値段で、しかも超前の席をゲットできるというわけなんです。

   「ミス・サイゴン」を見終わって、ホテルに帰ろうかなという時に時計を見ると、ちょうどRENTの始まる二時間ちょっと前だったので、ちょっと試しに参加してみました。先週も一回挑戦して、はずれているだけに、今日もだめだろうと思いながら、期待していませんでした。土曜だったので、だいたい200人くらいの参加者がいたし。それで何人か他の人の名前が呼ばれた後、「ヨスキ コターニー」という声が聞えました。始めは英語的発音だったので、自分の名前だとは気づかなかったんですが、二回目に呼ばれて、自分の名前だと分かり、うれしさのあまり、おもわず「イエスッッッッ」と叫んでしまいました。というわけで、一番前のど真ん中の席をゲットして、前の人の頭にもじゃまされず、すぐ目の前にRENTワールドが繰りひろげられるという夢のようなひとときを過ごしてしまいました。今日はアンダースタディ(代役)が一人もいなくて、先週見た時とは、ジョアンとロジャーが違う人で、やっぱり今日の人はうまかった。

   それに一番前だから、音がズンッズンッと体に響いてきて、もう最高です。細かい表情とか仕草まではっきり見えるので、こんなに何度も観てるくせに、新しい発見をいくつもして、やっぱりこの作品は奥が深いなぁと改めて感心しました。

   一番前だと、キャストのつばは飛ぶし、ミミの頭から降り注ぐキラキラも浴びるし、モーリーンの生尻も拝めるし、マークの家の鍵も僕の所に落としてくれたりしたので、もう本当に自分がRENTの登場人物の一員であるかのような錯覚をしてしまいそう。歌詞をほとんど覚えているだけに、舞台に上がって歌ってやろうかと本気で思ったくらいです。

   今日は思わぬ奇跡によって、こんなステキな時を過ごすことができて、本当に最高でした。しかしその後更に奇跡が起きたんです。ミュージカルが終わって、僕はバンドの演奏が終わるまでずっと席の所に立って、聞いてたんですが、いざ帰ろうと思ったら、僕の前を見覚えのある人達がスーッと通りすぎたんです。よく見てみると、さっきまで舞台で歌っていたミミとコリンズとマークの母親役とかいろんな役をやるチョイ役の人がすでに着替え終わって、帰るところだったんです。キャストが観客と一緒の出口から帰るなんて、日本では考えられないなぁ、さすがブロードウェイと思いながら、すかさず後を追いかけて、握手をしてもらうことに成功しました。ミミとコリンズの役の人に。もう一人の人はどうでもよかった。すいません。かなりの緊張と英語の語彙力のなさにたった一言「It was great」としか言えませんでしたが、ミミは「Thank you」と笑顔で答えてくれました。いやー、すごい。こんな幸せな日があっていいんだろうか。もしかして、明日死ぬんじゃないかな。

   さぁこれでRENTにはじまってRENTに終わった僕のニューヨークミュージカル観劇ツアー、略してNYMTはいくつかの奇跡によって、大成功のうちに幕を閉じたのでした。めでたしめでたし。



back